あれやこれや
column 7月20日
きものの染織あれこれ

其の壱 糸目友禅

糸目友禅(現品図案) 糸目友禅(現品図案) 糸目友禅 糸目友禅

大きく分類すると 友禅には「手描き友禅」「型友禅」のふたつがあります。

型友禅は 明治・大正期に化学染料が開発された後に考案された 比較的新しい技法。
型紙を掘り 多色刷りの版画のように 型紙を重ねて染めます。
生地に添って連続に型紙を送って染めることが出来る画期的な技法で 特に小紋などに使用されています(テキスタイル、シルクスクリーンなどにも…)。

一方 手描き友禅となる「糸目友禅」は 地区により呼び方は 異なり「京友禅」「加賀友禅」「東京友禅(江戸友禅)」に更に分類されます。
いずれも紙に直接図案を描き 其の図案に添って白生地に図案を合わせて 細い糊の線を描きます。現在は真鍮(しんちゅう)製の先が細くなった筒状の道具で 防染用の糊を細い糸目状に絞り出し描き写していきます。
因みに 「糸目友禅」を考案したのは 江戸期に京都で扇絵師だった宮崎友禅斎(みやざき・ゆうぜんさい)だと言われています。

糸目友禅が発祥した時代背景として 幕府から奢侈禁止令(しゃしきんしれい)という 庶民の贅沢を制限する禁令が出され 特に着物では 金銀の刺繍や絞り染めなどの贅沢が禁止されていました。
この禁令をかいくぐる形で考案された技法と云われ 細い円錐状の筒の先から絞り出す糊の線を生地上になぞり その糊を生地の裏面より霧状に水分で湿らすことで 糊が生地の内部に深く溶け進み 結果堰が作られることになります。
糊が乾いた後 生地には防染のフェンスが出来 其の内側に筆で友禅を差しても その外側へは流れ出さないという日本独自の防染技法「糸目友禅」が生まれました。(現在は、酸性染料の場合は 蒸しの色止め処理を行っています・・・)その反物を川の流れの中で糊だけを流す「友禅流し」は、風物詩として今に伝わっているので ご存知の方も多いはず。
色差しされた反物は 文様の輪郭に細い糸目状の生地白の線が残ることから 「糸目友禅」と呼ばれる訳ですが いわば、当時のファッション雑誌・カタログの「雛形本」などの発行により 全国に広まっていきました。

写真の着物は 当店の誂え図案で 糸目友禅の技法を使って染め上げた作品です。目を凝らして見ると 細い糸目の輪郭が判るはず。その繊細な技法を身に纏うと、自然とそんな江戸期の洒落心が肌を伝わってきます。